2018年1月6日土曜日

魚の話いろいろ


魚の話いろいろ

魚の話いろいろ

講師自己紹介 高井 紘一朗氏
水産業と農業を比較し、また経営者の視点から日本の水産業を見てきました。アサヒビールでは1982年ミュンヘンのビール会社のレーベンブロイと提携してライセンス生産を行うことになりました。醸造技術者として、その交渉を担当。何回かミュンヘンの同社を訪問した時に、切れ味の良いビールを紹介されて、その酵母を買いました。後々、幸運にもそれがスーパードライの酵母になりました。アサヒビールの専務を務めた後2004年に退職しました。同年日本のものづくりが団塊世代の一斉退職による技術・技能の断絶の危機だった時に、東大ものづくり経営研究センターの特任研究員となり、さらに現在水産庁の漁業構造改革総合対策事業の中央協議会委員も務めています。また奉仕活動の一環で現在東大病院のボランティアも行っています。
                               東大病院ボランティア

日本人の魚食文化
日本人が食している魚は約500種類あります。昔はアジ、イカ、サバなどを主に焼いて食べていましたが、現在はサケ、イカ、マグロなどを寿司など生で食べることが多くなりました。ニシンが獲れなくなったのは乱獲ばかりでなく潮流の変化によることもあると思います。有名な関アジ、関サバはブランドを守るために水産物初の商標登録を取りました。

水産業の基礎知識
  領海・接続水域・排他的経済水域とは
海岸線から12カイリを領海、24カイリを接続水域、200カイリを排他的経済水域と言います。日本はロシア、韓国、中国、台湾と隣接しているので中間線を引いています。よく問題になる沖ノ鳥島を韓国や中国は島ではなく岩礁だと主張しています。常に水面上で出ていて経済行為を行っていないと島とは認められません。岩の場合、領土として主張できても排他的経済水域は主張できません。国益とは、自国に有利な主張をすることのようです。

                     日本の領海等概念図 海上保安庁HPより


  漁業権とは
これが曲者で関西空港や中部空港を作った時にも漁業をほとんどやっていない人にまで補償金を払いました。海が国のものであれば補償金を払う必要はないのです。先日大分寄りの宮崎県に行ったら海岸に立派な建物が建っていました。種子島のロケット打ち上げの影響を受けるからと補償金で建設されたそうです。

  漁協とは
全国に960組合あり、海のない岐阜県や長野県にも漁協があります。漁場管理に国は手を出せず、古い組織のままなので疑問が投げかけられています。今まで50ヵ所以上の漁協を見てきましたが、本来守るべき漁民の利益を奪っているようなこともあると思います。

  魚の獲り方
定置網漁は潮流のあるところに海岸から23キロに建て網を仕掛け、その先に魚を集める箱網があり、11回上げるだけの漁なので乱獲になりません。現在は魚群探知機などを使えばどこに魚がいるかが分かります。まき網漁、底引き網漁、はえ縄漁は乱獲につながる危険があります。ソロモン諸島の入漁料は1100万円もします。アメリカは漁を放棄しました。佐賀明神丸船団はカツオ1本釣りで有名です。カツオ一本釣りは体力が必要なので日本人のなり手がおらずサモア方面の人達を雇っています。イカ漁の白熱灯は走る以上に燃料を食います。LED代替も検討されていますが投資額が高いことと波長が異なるため現状は普及が進んでいません。

  世界の漁獲高
国連海洋法条約が1994年に発効し新しい海のルールが決まりました。1980年代当時の日本経済はバブル期だったので銀行が融資してたくさんの漁船を造らせました。この時の船が現在老朽化してきました。そこで最近漁業改革推進集中プロジェクトで新しい船を造る時の支援の仕組みができました。ピーク時はイワシが年500万トン獲れました。今は年40万トンしか獲れませんが、それでもイワシは日本で一番の漁獲高です。排他的経済水域の設定で影響を受けたのが遠洋漁業と沖合漁業です。ロシアの海域でのシャケ、マスの流し網漁も2016年以降禁止されました。日本のピーク時漁獲高は年約1300万トン、今は約450トンと3分の1に。漁民も3分の1になり、これだと50年間生産性は上がっていないことになります。中央協議会委員は水産関係者が大半なのでおかしいと思っても水産庁には中々言えません。私は生産性向上だけはでうるさく言います。世界の漁獲高は年9000万トンで頭打ち、資源が少なくなっていることを示しています。中国の養殖生産量が急速に増加していますがアヒルの糞などを餌にしているので特殊です。



                          世界の漁業生産量の推移(国別) 図2-4-1 水産庁HPより


◇水産物の流通
漁港に産地卸売市場(2011年、329ヵ所)があり、消費地に消費地卸売市場(2011年、273ヵ所)があります。消費地卸売市場で一番有名なのが築地市場です。現在、スーパーや商社が一船買いをするので、市場外流通が5割以上になっています。漁協と同じで卸売市場も多すぎると思います。究極の市場外市場は「羽田市場」です。飲食店や小売店にネットを通じて販売します。漁民の取り分を増やしたいという思いでCSN地方創生ネットワークが取り組んでいます。銀座8丁目に直売店があり、寿司チェーンの「 寿司岩」はここの魚を扱っています。一般に卸売市場は汚いところが多いです。商品を床の上に置いて足蹴にしている産業に未来はないと思います。沼津魚市場では清潔で魚をちゃんとケースに入れて扱っていました。

漁業の問題点
日本の漁獲高、漁民も50年間で3分の1に。しかも漁民の50%は60歳以上です。船は汚く、これでは水産高校卒業生も入ってきません。従って沿岸近くで行う定置網漁なら携帯電話も使えるし日帰りなので、若い漁業者に人気があるそうです。漁業は赤字経営、高齢化、漁船老朽化ですが、農業以上に補助金漬けで危機感が少ないと思います。

解決策
水産庁の年間予算は約2300億円、その内700億円が港湾整備費で今もハード中心です。良いPR誌も作っているのに世間に知らしめしていません。資源減少に対して養殖が良いという人もいますが、餌代が大半で採算の合う魚種が少なく、マグロだと1キロ体重を増やすのに13キロの餌が必要です。しかも狭い場所でたくさん飼うので病気になりやすい。このため抗生物質を多用、これが人間への悪影響の恐れがあったため使用禁止となりました。現在はワクチンを1匹ずつ接種するなどしておりコスト高です。養殖に過大な期待はかけられません。養殖だけではなく、国が海を科学的な根拠に基づいて水産資源を管理した方が良いと思います。

魚介類の消費量の推移
日本では肉の消費量が魚の消費量を上回りました。しかし世界ではアルツハイマー型認知症の予防や幼児の知能発達促進効果など健康管理上、魚食に注目しています。また日本の普通のマグロの消費量は世界全体の4分の1なのに、高級マグロの本マグロやミナミマグロに関しては世界の生産量の76%も消費しています。


              図2-1-5 国民一人一日当たり魚介類と肉類の摂取量の推移 水産庁HPより

魚介類簡単レシピー
    サケを青葉(レタスや白菜)に包んで電子レンジに入れ、味付けはポン酢、又はマヨネーズとケチャップを半々にしたソースをかけます。サケはタンパク質の宝庫です。
    ベーコンでカキを巻き、フライパンで焼きます。味付けは塩、コショウ少々。カキは亜鉛の宝庫です。



水産業支援取り組み状況
厳しい経営環境下ある水産業を復活させるために水産庁は、水産基本法に基づく水産基本計画を20174月に出しました。内容は中堅漁業者の育成、漁業資源を守るなどです。これが2000年前後に出ていれば良かったのですが沖合漁業、遠洋漁業は赤字経営だったため中堅漁業者は撤退してしまった後ですから、これでは遅すぎると思いました。一方私が参加している漁業構造改革総合対策事業では補助金は事業主体(水漁機構)から事業実施者(漁協等)を通じて漁業者に渡ります。また計画や実施状況が地域協議会、中央協議会に報告され、計画の審査・認定・指導・助言・検証が行われています。また水産庁は2012年から魚介類の料理時間・買物時間の短縮、気軽さをうたう「ファストフィッシュ」などの消費促進をやっており、セブンイレブンではファストフィッシュ認定の「サバの味噌煮」をすでに1000万食以上販売しました。また世界的な機関が水産資源や海洋環境を守って獲ったり加工流通した水産物にSMC認証(海のエコマーク)を行っています。

講師が考える日本漁業の理想像
魚がもっと消費され、日本独自の魚食文化を守る
政・官・業が協力して日本の漁業の将来像を描く
キツイ、キタナイ、キケンな仕事からの解放
サラリーマンにも出来る漁業(一家業→ 企業化)
収入が増えて漁業が誇れる産業に
嫁が来て後継者に困らない漁業へ


質疑応答
    福島原発事故や水銀などに汚染された魚介類を、どう考えたらよいのですか
→ 福島原発事故以降、ロット毎に汚染調査をしています。チゲ鍋にタラは必須なのに韓国や中国、台湾は過敏に反応しています。ほとんど風評被害と考えて良いです。石巻市場では放射能の検査室を持っており、全品検査し記録が残っています。問題のないレベルです。また福島沖は禁漁区となっています。小魚を中魚が、中魚を大魚が食べる食物連鎖もほとんど気にしなくても良いと思います。ただし深海で獲れる魚は気を付けた方が良いかもしれません。

    日本のサバよりノルウェーのサバの方が美味しいのは一定のレベルに育つまで待っているからと聞いている。日本の漁業管理はどこまで出来ているのですか。
→ 日本の漁業は漁民任せが過ぎます。漁獲量を企業や個人まで割り当てていません。ノルウェーでは企業や個人まで漁獲量が割り当てられています。そのため、魚貝類が成長して高く売れる時期に獲ります。日本は獲ったもの勝ちのため未だ成長していない小さな魚まで獲ってしまいます。漁協に任せていたらこの状況は変わりません。このことを小松正之さんは「海は誰のものか」で指摘しています。


【受講者の感想】
大変参考になりました。近年、魚の水銀汚染が問題になります。この点についてのお話をもっと聞きたかったです
講師の学識に感動しました
色々知識が増えました。有難うございました


【開催】
日時:  20171216日(土)10001130
会場:  雑司が谷地域文化創造館 第1会議室 B
参加者: 30 マナビト生、豊島区民