2017年11月10日金曜日

仏像の見方入門編


仏像の見方入門編


 
講師紹介 君島彩子氏
総合研究大学院大学 文化科学研究科 国際日本研究専攻(国際日本文化研究センター)博士後期課程。水墨画家として活動しながら、仏像を多角的に研究。
研究と制作の経験を活かし「にぎり仏ワークショップ」講師を行なっている。


【仏像のはじまり】
現在、知られている最古の釈迦の図像は、コインに表されたものです。このコインはインド周辺で作られ、アフガニスタンに渡ったと考えられます。法輪を転がしている人がお釈迦様です。凄いヒゲをたくわえていており、ギリシャ神話のヘラクレスのイメージと釈迦の象徴だった法輪が合わさっています。
仏像が現在のような形として現れたのは、釈迦が入滅してから約500年後です。ガンダーラとマトゥラー、2か所で同時期に誕生しました。ガンダーラは現在のパキスタンで、ギリシャ彫刻の影響を受けています。マトゥラーの仏像は赤っぽい石が特徴です。その後、インドから西域、中国そして朝鮮半島を通じて仏像は日本に経て伝わりました。
538年(552年説もあり)、日本に仏教とともに仏像が伝わりました。百済の聖明王から欽明天皇へ仏像が伝えられ、5世紀には日本でも仏像の制作が開始されました。


               ガンダーラで作られた《菩薩立像》(東京国立博物館)

【仏像でたどるお釈迦様の一生】
仏像は釈迦がモデルになっているので、仏像で釈迦の一生をたどることができます。釈迦の誕生を表したのが誕生仏です。龍神が甘露の雨を降らせたという故事に基づいて、花まつりに甘茶を注ぎます。釈迦族の王子だった青年期に色々と悩んだ姿をモデルにして作られたのが悉達太子像です。弥勒菩薩と考えられる像にも、悉達太子像があると考えられます。奈良国立博物館蔵の出家した時の釈迦像は珍しいものです。出家して、ガリガリになるまで修行をした姿の像もあります。注目して欲しいのは手の形。修行の邪魔する魔をはらっている降魔印。禅定印は悟りを開いたポーズです。最後に釈迦は涅槃という状態に入ります。横になっているのが涅槃仏です。


                 《釈迦涅槃像》(岡寺)

【仏像の種類】
如来
悟りを開いている像です。出家した後の姿なので布を巻いているだけで、アクセサリーを付けていません。薬師如来といえば薬壺を持っていると思われがちですが、古い像は持っていないことも多いです。阿弥陀如来は、浄土信仰の中で多く祀られました。快慶作の三尺阿弥陀とよばれる様式はとても流行しました。密教では大日如来は宇宙そのものなので、他の如来と違って装飾を付けています。


                   《薬師如来坐像》(東京国立博物館)

菩薩
菩薩は如来になる修行中の姿です。如来では手が届かないとろまで助けてくれます。菩薩像は沢山あるので主要なものだけ。一番多いのが観音菩薩。千手観音や十一面観音など様々な種類が作られました。文殊菩薩は、マンジュシュリーという実在した人物がモデルになっています。地蔵菩薩は中国で広まった経典を基に作られている菩薩で、インドでは作例が確認されていません。お釈迦様の次に如来になると決まっているのが弥勒菩薩です。

明王
明王は密教で信仰されている仏です。如来の優しいイメージとは逆に、怠ける人を叱ってくれるのが明王なので、怖い顔をしています。不動明王は大日如来と同体と考えられています。後ろの炎の中には、迦楼羅(ガルダ)という鳥が隠れています。降三世明王が踏んでいるのは、ヒンドゥー教のシヴァ神と妻ウマです。東寺講堂の立体曼荼羅が有名です。


                   《不動明王立像》(東京国立博物館)

天はインドの神が仏教に帰依した姿です。有名な阿修羅像は、戦い続ける神が仏教に帰依したので、悲しい顔をしています。天部にはインドの古い神なので、女神像もあります。吉祥天はラクシュミーという豊穣の女神。弁財天はサラスヴァティーと言うインドの川の女神です。大黒天はマーハーカーラという戦闘神でしたが、日本では大国主命という神様と重なり、ニコニコした大黒様になりました。


                   《吉祥天立像》(東京国立博物館)

垂迹神
垂迹神は日本で誕生したオリジナルの仏様です。垂迹というのは、神様の本体が仏様という信仰に基づいて誕生したもの。さらに道教や修験道など、色々な信仰が影響しています。早い時期から八幡神は仏教と結びつき八幡大菩薩と言われました。仏教と神道を分離した明治政府にとって、垂迹神は都合が悪いものでした。そのため廃仏毀釈によって多くの像が破壊されました。

                   《武装神坐像》(代将軍八神社)

人(羅漢・高僧・居士)
人間の像もあります。お堂の入り口に賓頭盧(びんずる)様という、釈迦の像が置かれています。居士は出家をしていない仏教徒です。日本で一番有名な居士は聖徳太子です。聖徳太子について様々な学説がありますが、像が沢山残っていることは、それだけ信仰を集めてきたと言えます。また禅宗では頂相といって師僧の像が重要な意味をもちました。


【仏像の見方のポイント】
仏像の台座部分をじっくり見てみると、とても面白いです。
一番の定番は蓮華座。なぜ蓮の花かと言うと、泥の中から咲いている蓮の花は清らかなイメージだからです。四角い箱は須弥座といって、台座を仏教の中心にある山、須弥山に見立てています。裳懸座(もかけざ)とは、須弥座に衣がかかってテーブルクロスのような台座です。この他に岩座や雲座もありますね。動物に乗っている像も多いです。帝釈天は象、梵天はガチョウ、孔雀明王はクジャクに乗っています。渡海型の文殊菩薩は獅子に乗って海を渡っています。さらに四天王像が踏んでいる邪鬼の顔も大変おもしろいです。


                     《増長天立像》(浄瑠璃寺)

【運慶展の見どころ】
今、運慶やっているので、行かれる方も多いとおもいますので、鑑賞ポイントを2点。
まずは生きている人のような眼です。薄い水晶の板の内側に和紙を入れて、そこに眼を描いています。これを玉眼といいます。また運慶の瞋目(怒った目)は、実際の人間に近い形なので、古い時代の像とは全く違うリアリティをもっています。
現在の彫刻家なら、どこから見ても美しい像を意識しますが、仏像は寺院に祀られていたので、仏師にとって正面が一番重要でした。しかし、運慶の像は前からだけでなく、後から見ても、横から見ても完璧な姿をしています。今回の展覧会では横や後ろから見える像もたくさんあるので、ぜひ鑑賞してみてください。


               東京国立博物館「運慶展」2017926日〜1126




【質疑応答】
    もう二度と、このような運慶展はないのですか。
→ここまでのスケールは難しいではないでしょうか。規模は大きくないですが、来年、神奈川県金沢文庫で運慶展が開催されます。今まで注目されてこなかった運慶の仏像や、数年前に発見された運慶の仏像が展示されます、こちらもお勧めです。


           金沢文庫「運慶展」2018121日〜36

    先ほど説明された瞋目と玉眼は、いずれも運慶作ですか。
→違います。200年くらい前の像を比べるために並べました。眼のリアリティが前の時代と全く違う点を注目していただければと思います。

    奈良の大仏(廬舎那仏)と如来の関係はどうなっているのですか。
→ざっくり言えば、廬舎那仏と大日如来は同じルーツですが、経典が違うので、形も違います。毘盧遮那仏は華厳経に説かれている宇宙の如来でヴァイローチャナといいます。光明遍照、つまり輝き渡るという意味です。華厳経は早い時期に成立したもの。宇宙として毘盧遮那仏というイメージです。密教が成立すると、宇宙としての大日如来が誕生しました。大がつくので、マハーヴァイローチャナになります。


【参加者の感想】
仏像は多種多様ですが、入門レベルで見方を大変分かりやすくコンパクトにまとまった講演でした。また運慶の写実性について、ポイントをとらえた説明でした。
仏教の基本から仏像の意味まで多岐にわたり、やや盛りだくさんの感もありました。ランチを交えての交流会は、エピソードや出展の背景など知ることができとても良かったです




【開催】
日時    2017107日(土)10301200
会場    みらい館大明 ブックカフェ
参加者   38 マナビト生、豊島区民

2017年11月2日木曜日

魚のことをもっと知りましょう。12月16日(土)午前の講演会ご案内です。